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その日は北海道を捨て東京へと旅立つ前日。

まだ3月、外は雪が降っている。

夜の10時を回った頃、

明日の朝の千歳空港行きの列車の時刻を確認しに美唄駅に行った。

「明日は朝が早いな。」と独り言。

もう北海道で暮らす事はないだろうと感じていた。

明日の今頃は美唄を離れ東京にいる。

時刻表を確認して誰もいない駅を帰ろうとした時、

列車がホームに着き、乗客が降りて来た。

降り立つ乗客を背にして帰ろうとした時、

僕のウォークマンのイヤホンを誰かが外した。

振り返ると、高校時代の隣のクラスの娘が立っていた。

卒業してから2年が経つ。

とくにドラマチックな事は二人の間にはなかったけれど、

大好きだった。

俺はその2年の間いつも彼女に逢いたかったけれど、

それぞれの事情で逢えなかったのだ。

当然だけど、久しぶり見る彼女は

高校生の時と比べて大人の女性になっていた。

彼女は「今、会社の人達と焼き肉屋さんに行って来たんだけど匂わない?」

と、2年も逢ってなかったのに、あの頃の様に話しかけてきて、

互いの体が触れるくらいに近づいて来た。

「こんな所で何してるの?」と彼女。

「明日、北海道を離れて東京で暮らすんだ。だから列車の時刻確認。」

「もう、北海道には帰ってこないの?」

「・・・たぶん、帰らない。」

どうして今になってこんな所で逢うんだろう。

話したい事もたくさんあったけれど、もう手遅れだ。

俺は明日、北海道を離れてしまう。

しばし沈黙が流れ、彼女に外されたイヤホンから

チューリップの「青春の影」が流れていた。

彼女が視線をむけて

「じゃあ、今、抱きしめて」と彼女が言った。

「ああ、いいよ」と俺。

しばらく抱きしめた後、彼女は

「ありがとう」と言って、

雪の降る町へ消えて行った。

あれから随分と年月が過ぎたけれど、

やはり俺は東京に居る。
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